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授業が始まって直ぐに抜け出た廊下は静寂に満ちようとしていた。
それを邪魔しないよう、ひいては自分が見つからないように足音も密やかに歩みを進める。
見晴らしの良い屋上へ向いた身体を途中で曲げ、窪みへ滑り込んだ。
「……なーにがワザとだよ」
洗面所の鏡に胸元を開き、首筋を確かめる。
呆れとぼやきを一緒に吐いた。
「こんなクッキリつけやがって」
斜めに走る、一筋の赤。
下からゆっくりなぞり、辿り着いた上から再び戻る。
ふと手を止めた。
「――ッ」
対角線上から斜めに引き下ろす、爪。
僅かの内に交差する線が赤く浮かび上がったのを見遣り、再び胸元を閉じる。
唇に笑みを浮かべ、今度こそ昼下がりの屋上へ向かった。
拒絶の印か、目的の印か。
彼に選ばせようと思う。
end.