紅い雨


 

 

 子供達の上げる歓声の中で、観覧車は風景に平和に溶け込んでいる。

 

 あの惨劇の後、彼の席など被害を受けたもの全てが急いで交換されたものの、観覧車自体は暫く封鎖されていた。
 とはいえこのモールの目玉であるこれは早くに稼働させたかったのだろうとは思う。
 最初はさすがに恐々だっただろう観客も、その内に慣れてしまった。
 自分さえも、此処を訪れる事に感じていた抵抗が薄れてきたのが分かる。

 

 年を経る、というのが強い思いが薄く伸びてゆくことだとすれば。
 こうして忘れ去られていくのだろうか。
 場所にも、人にも。 

 

 ふと、頬に水滴が当たるのを感じた。
 雲の無い空から降る天気雨。
 直ぐに止むだろうと払いもしないでいると、水の伝った後を寒風が撫でていった。  

 

 ――忘れない。
 誰もが忘れようとも、全てに忘れ去られようにも。
 私だけは。

 

 あの頬に当たった紅い雨の味を、私だけは忘れはしない。

 

 

 

 


end.

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