止まない雨


 


 

 

 困った。
 雨が、止まない。
 外側から注ぐ雨と、内側に抱える雨と。

 

「……サ店ん中に居るんやなかったんか」
「サ店とこに居る、って言っただけだろ」
 雨が酷いから迎えに来い、と言われたからここまで来たものの傘は役に立ちそうにない。
「ずぶ濡れやんか……どう、したんや」
 大した事件ではないと確か彼は言っていた。取り立てて興味を覚えるものではなかった、と。
 ならどうして、濡れるに任せ身体を預けているのだろう。
 どうして顔を上げず、じっと身体を雨に浸しているのだろう。
「……なあ。風邪、引くで」
「―――いらない」
 月並みの台詞と差し掛けた傘が払われ落ちた。
 払った手が腕に延びると、そのまま彼は体温を確かめるように身を寄せた。
 肩に力無く凭れた頭が、静かに息を吐いている。
「どう……したんや」
 冷え切った身体を抱えるように彼の背中に回した手を、どうするか迷って結局触れるだけにした。
 当惑。混乱。いつもの彼では考えられない行動に言葉が出てこない。
 それでも何とか口を開こうとした隙に、呟きがするりと入り込んだ。  
「俺って、まだ生きてるんだな、って思って」
「―――な……にが」
「人が死んで、いつも死んで、でも俺は生きてる」
 耳元で繰り返される、その言葉。
 乾いた声で繰り返される、その言葉。
「人が沢山死んで、でも俺は」
 止めなければと反射的に口を開いた。
「―――なあ。お前が生きとるいうことは、まだ死ななくてええっちゅうことやろ?
せやから、死ぬまで生き残ればええんと違うか」
「………」
「俺も生きとるから、せやから大丈夫や」
 何が大丈夫かは自分でも良く分からないけれど、分からないままに言い募り、
それに気付いてぱたりと口をつぐんだ。

 

 肩に凭れた頭は更に重くなり、寄せられた彼の手が腕を掴んだ。
 けれど、
返事は無い。
 困った。
「―――雨、止まへんな……」
 外側から注ぐ雨と、内側に抱える雨との中、立ちつくしている。

 

 

 

 


end.

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