サイレントサイレン <silent siren>


 

<X>

 

 そして、期限の日の朝が訪れた。
「おはよ」
「……はよ」
 新一に起こされ、平次はぼんやりと頭を上げる。
 しっかり眠って体力が戻ったらしい彼に比べ、すっかり鼻風邪を引いてしまったようだ。ひとつクシャミをして鼻を啜った。
「あー……油断したわ」
「服部。お前、何でソファーで寝てる訳」
 至極最もな質問だ。
 但し素直に答える訳にはいかなかった。寝起きの頭でもそれは分かった。
「……お前の寝相が悪くてな、追い出されたんや」
「――そっか。悪い事したな」
 素直に謝られると、困る。
 悪いのはこちらだというのに。
「す――直ぐに謝るなんて工藤らしくないわ」
「んだよ、一応心配してやったっていうのに」
「大丈夫やて。朝メシの前に打ち合わせやろ」
「シャワー浴びて身体暖めてからでも遅くないけど」
「……スマンな、目も覚ましてくるわ」
 浴室に向かう平次に、不可解な視線を新一は投げた。
 隣に居るから、安心して眠れたと思っていた。
 目覚めた時のあの気持ちをどう表せば良いのか。
 彼が戻るまでに結論付けようと思ったけれど、結局は徒労に終わった。
「待たせたな。さ、打ち合わせしよか」
「まあ――いいか」
「何がやねん」
「別に」

 

 

 静かな朝食を終える。
 誰もが、今日で謎に繋がれた集まりが終わりだと分かっていた。そして、最初に口を開いたのはやはり年嵩の姉だった。
「今日で最後ね。謎は結局解けなかったのかしら」
「どこまでの謎を解きたいですか」
「え――」
「どういう意味よ」
「それでは、まずは手紙の謎からお話ししましょう」
「ちょっと――」
「これから、あの崖の松の木の下に集まって下さい。皆さん全員」
「俺、常盤木サン呼んで来るわ」
「ああ」
「更陽子さんも、来られますね?」
『はい』

 

 

 今日も晴れている。
 ここに来てから、ずっと晴れていた。
「皆さん揃ったようですね。それでは、まずこの手紙の謎から――」

 

 朝が訪れ
 昼が過ぎゆき
 夕を迎え
 夜に果つるその場所で

 陽に触れ
 月に触れる彼を臨み
 広げ翳す万緑の傘

 

「そして、」

 サヨコ ハヤクワタシタチヲムカエニキテ

「まず、絹斗さんの手による詩らしきモノ。これの後半はこの場所です。彼、とは陽が昇り、月が昇る海の事。それが見える位置に立つこの松は――常盤木さんの手により、まるで緑色の傘のようだ」
「そして、飛びますが綾子さんのモノらしい走り書き。ここでの《サヨコ》は……更陽子さん、貴女ではありません」
『――?』
「それは何故か? 詩の前半に戻ります。これはこの屋敷の――絹斗さんの子供達の名前」
「亜麻子は朝、昼は更陽子。夕は木綿子、やな」
『ひとり、おおいです』
「更陽子さん。貴女、神社で神に半分を食べられたそうですね」
『はい』
「母親に良く言われていた、けれどどう食べられたのか分からない、と」
 姉二人が顔を伏せる。知っているという事か。
「いつも見るという夢の内容、以前に教えて下さいとお願いしましたが」
『はい、かきました』
 リングノートを広げて見せる。
『波の音が聞こえます。船の影が遠くに見えるのですが、呼んでも聞こえないようで、歌を唄います。』
『けれど、船は気付かないまま行ってしまいます。そしてもうひとりの私が嘲るのです。もっと唄え、もっと唄えと。私は必死に唄い続けて、どれだけ唄ったか分からないままにふと目が覚めるのです』
「硝子瓶はいつもは転がって無いのですね」
『はい。いっかいだけです。おぼえているのは』
「そうですか、それではその日は特別だったのですね。……もう一人の貴女、それは貴女ではありません」
『だれ……ですか』
「サヨコさんです」
『――え?』
「いえ、綾子さんが貴女と同一視してしまった、もう一人の子供……ですね、木綿子さん、亜麻子さん」
「ああ――」
 呼び掛けた名前に何かの力があるかのように、二人から抵抗が消えた。
「話してもらえますね」
「そう……私達にはもう一人妹が居ました。名前は、サヤコ。夜更けの子供」
「更夜子は、更陽子の双子の妹。あたし達が、殺してしまった、妹――」

 

 

 

 


<XI>
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