サイレントサイレン <silent siren>


 

<XII>

 

 最後の乗り継ぎ駅まで辿り着いた。東京まで戻るのに、残るはこの路線だけだ。
 もう少しで電車も来るというのに、平次は前の駅で買った弁当にぱくついていた。
「こんな眩しいトコで良く喰えるな……ほら、お茶」
「おおきに」
「本当に良く喰うなあ、お前」
「んー。何か俺、喰いたいモンがあるらしくて」
「んだよそれ」
「分からん。やからそれを探してるんや」
「肉系とか野菜果物系とか、その辺は」
「最初は肉かと思うて喰ってたんやけどなあ。これもどれも違ったし」
「それでハンバーグ弁当、ね……牛、豚、鳥、魚……そういや羊も喰ってたっけ、お前」
 せや、と頷きながら茶を飲み干し、一息吐いた。
「ごっそさん。いっそ鯨に馬に雉に猪……までいかなあかんかも」
「それでも違ってたら?」
「……珍味紀行になってまいそうやな」
「東京着けば殆ど手に入りそうだけど」
「せやなあ。ま、向こう戻ってからゆっくり探してもええんやけど」
 ベンチで伸びをして壁に寄り掛かった。
 赤い太陽に白色が響く駅は無人に近い。
 行きに使った時と同じく、客は相変わらず居なかった。
「しかし、西陽キツイで。眩しいなあ」
 手を翳して影を作る。
「それ、さっき俺言った」
「せやったか」
「そうだよ。喰ってて気付かなかったんだろうけど……ああ。服部」
「何や。何か分かってんか」
「今思ったんだけど、お前、あの神社の神サマでも憑いたんじゃねえ」
「あの……ってあの」
「人喰い」
「――ヒト」
 虚を突かれ平次は目の前の彼を見詰めた。
 人を、喰う。
 例えば――目の前の。
 そっと。
 手を伸ばす。
 触れた頬の確かさ。
 ゆっくりと顔を近付ける。
 交じる息。
 唇の確かさを感じたくて触れようと――
「――!」
 間際まで近寄って、意識が突如明瞭になった。
 弾くように彼から離れる。
「か、帰るわ俺」
「え――」
「ほな」
「ちょ、……服部」
 踵を返し逃げるように彼を後にする。
 彼を置いていってしまう形になってしまった。けれども自分の感情をぎゅうぎゅうに抑え込むだけで精一杯だ。
 タクシー乗り場で車を拾い、目的地を告げると運転手は驚いたようだった。確かに、電車に乗った方が明らかに安いし、早いだろう。
 けれどとにかく、彼から少しでも遠ざかりたかった。
 今の自分は何をしでかすか分からない。
 昨夜もそうは思ったけれどまだ抽象的だった。それが、もっと明確な意味を持って現れた。
 やっと、気付いた。
 喰いたいと思っていたのは。
「――くどう」
「――何なんだよもう――」
 新一は全身の力が抜けたようにへたり込んだ。
「ひとりで泡喰って帰って行きやがって。ってアイツ、電車じゃなくて何使って帰るんだよ――」
 残されたこちらの感情などお構いなしだ。混乱しているのはこちらも同じだというのに。
「――馬ー鹿……やろ」
 彼に触れられた頬の熱さに目眩がする。夏の陽射しにすら発熱しなかった身体に異変が生じている。
 頬に手をやり息を吐く。

 

 

 触れれば受け入れていた。
 僅か近づく事を願っていた。

 

 

「はっとり」
 ここにはもういない彼の名前を呼ぶ。

 

 

 声も無く。

 

 

 

 


<END>
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<afterwords>


 

 

 

 

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