zero cool
「どや、そっちの準備は出来たか?」
「ああ、こっちもOKだ」
犯人も、動機も、証拠も、全てが揃った。
後はそれらを順序良く並べ、隙間の無いように組み上げて舞台上で披露するのみ。
「―――いける、か?」
心配の混じった声に顔を上げる。
頬に寄せられた温かい手を、ついと外した。
「誰に言ってんだよ」
代わりに唇の端を上げて笑むと、寄せられた手が引かれた。
今は駄目だ。
この温かさに、馴染んではいけない。
(―――"zero cool")
呪文を口の中で唱える。
「……それでこそ、工藤やな」
「まあね」
"zero cool"―――極めて冷静であれ。
冷め切った頭で、本質を見ろ。
冷静さを演じろ。
「ま、今回の推理ショーの主役はお前に譲っといたるさかい」
「負け惜しみ言うなよ。俺の真実の方が少し早かっただけだろ」
「次は負けへんし」
「推理は勝ち負けじゃないっての」
軽口も冷えた体を通り抜ける風のようで心地良い。
肩を軽く叩かれ、立ち上がった。
「ほな、舞台へ上がるとしよか」
「―――ああ」
目を閉じる。開く。
頭の中で開幕のベルが鳴り響いた。
end.