椅子の上 魔法瓶の下


 

 良い椅子を一脚持っている。
 肌触りが良くて、包み込まれるように気持ち良い椅子。
 気が付けばすっかり身を委ねているような、座り心地が良い椅子。

 けれどそれはヒトを喰う椅子。
 ギリギリで現実に戻らなければ、たちどころに貪り喰われて骨だけが椅子の上に残る羽目になる。

 だから、気を許してはいけない。

 寝心地が良いのは確かだけれど。

 

 大事な魔法瓶がある。
 表面は滑らかで、冷ややかで、内側を守るように硬い。
 大事に抱きしめても自分を主張して、拒絶するように硬い。

 けれど内側は酷く熱くて、直に触れれば火傷は免れない。
 全身に思うがまま浴びた日には、皮膚はただれ落ちて骨まで溶けてしまうだろう。

 だから、ゆっくりと時間を掛けて少しずつ触れていこう。

 表面にぬくもりが移る位に。

 

 

 椅子の上に魔法瓶が乗っている光景を、二人で眺めている。

 

 

 

 


end.

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