チョコの誘惑


 

 

 紙袋がひとつ、ふたつと目の前に置かれて何事かと視線を上げた。
「……何これ」
「貰ったんや。一緒に食お思て」
 倒れた袋から転がり出る、幾つものきらびやかな包み。
「ああ……何お前、こんな沢山返せる訳?来月に」
「俺はいらんって言ったんやけど、なんや無理矢理押しつけられてしもて」
「押しに弱そうだもんな、お前」
「言うなや……女のコに両手で渡されるとなあ、つい」
「で?俺にお裾分け、って事?」
「俺一人じゃ食いきれんさかい、何でもいいで」
「……嫌な奴だな、お前」
「ほうか?」
「どれが誰のかなんて、どうせ分かんないだろ……手作りのはパス。丁重に片づけな」
「分かっとるって」
 乗り気ではなくても一応眺めていると、茶色い包みが目に止まった。
 シルバーのリボンに、紫でMの連続模様が描かれている。
「これ……」
「何?」
「MacMahonのチョコじゃねえ?」
「そうなん?良く知らんわ」
「俺、これがいい」
「ああ、ええけど。……何、好きなん?それ」
「好きっていうか、まあ食う方かも」
「それは好きとは言わんのか」
「濃過ぎなくてさ、結構美味いんだ」
「さよか。……それだけでええんか?」
「後はいらない」
 遠慮無く包みを破り、取り出した箱を開ける。
 薄く刻まれた茶色のカケラを幾つか口に含んだ。
 するりと溶けて流れ落ちる甘さが愛しい。
 もうひとつつまんで、刻印されているMMの字を見せた。
「けどさ、結構値段すんだけどこれって……」
「美味いか、なら良かったわ」
 満面の笑みに、何となく嫌な予感がした。
「―――?」
「それ、俺が買うてきたチョコやねん」
「―――は?」
「いやー、前にお前ん家でこの包みみっけて、気になっとったから店調べて買うたんや」
「―――」
「これだけ選んでもらえて、ホンマ嬉しいわ俺」
「………」


 チョコに罪は、ない。
 がしかし。

 とりあえず、つまんでる内に溶け出したチョコを口の中に入れた。
 茶色に染まった指はそのままに、彼を招く仕草をする。
「何?」
「いいから」
 怪訝そうに降りてきた顔に、招いた指を滑らせた。
 唇に染まる、茶色。
「―――なっ」
 慌てて引こうとした彼に微笑むと、動きが止まった。
 指で引いた茶色の後を、舌でなぞる。
「ん……」
 そのまま深く口づけると、一緒に溶けたチョコが流れ落ちた。
 嚥下を幾度かして、ゆっくりと離れる。
「……くど、」
「俺からの、お返し」
「ホンマ、嫌な奴やな……」
 お互い様だろ、と笑って返した。

 

 

 


end.

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