The night's film


 

 

 柔らかく降る朝の光に、平次は目を覚ました。
 二度三度瞬き、ぼんやりとする頭を揺らすように半身だけ起きあがる。
 傍らの新一は珍しくまだ寝息を立てていたが、振動が伝わったのかうっすら目を開けた。
「……はよ」
「おはようさん」
 唇を寄せ、軽くついばむキスをする。
 目覚めたばかりの彼はまだ夜を引きずっているようで、応えているうちに深さを増した。
 名残惜しくもゆっくりと離して息を吐いた。
「ん……今、何時――」
 聞かれてベッドサイトの時計に目を遣り、時間を告げる。
 途端に新一は目を開いて跳ね起きた。
 夜の皮膜が一気に剥がれ落ちる。
「――やばっ!」
「……何やの」
「寝過ごしたんだよ!今から人と会わなきゃいけないってのに」
「はあ?今日は予定ナシやなかったか?俺聞いてないで」
 言ってないし、とドアを勢い良く開けると、階下へ音を立てて降りていった。
 一人残された平次は呆然と呟く。
「何や、騒々しいなあ……」
 つい先刻までは夜の名残を楽しんでいたというのに。
「にしても、誰と会うんやろな……あない急いで」
 そういえば、今関わっている事件について聞いていたが、それに関する事かもしれない。
 洗面所から再び駆け上がって来た新一にのんびり聞いた。
「そう。関係者」
「時間遅く出来へんの」
「無理」
 単語でしか話せない位、切羽詰まっているらしい。
 シャツのボタンを必死にかけているが、慌て過ぎてボタンで遊んでいるように見えてしまう。
「工藤、こっち向き」
「何だよ」
「ええから」
 所々開いたシャツを、ボタンで閉じてやる。
「慌てると上手くいかんで」
「――っさいな」
 留め終えた手をぱしり、と叩かれた。
「朝メシは」
「喰う暇無い」
 急ぎ足で階段を下りる彼の後を追い、玄関先まで見送る。
 支度をあらかた終えた彼からはすっかり夜の気配が消えていた。
「なあ」
「――んだよ」
 少しばかり、時を戻してみたくなる。
 靴を履き終え、うるさそうに見上げた新一に自分の唇を指さし、笑んだ。
「―――」
 一呼吸後、軽くかすめる感触がした。
「遅れたらお前のせいだからな!」
 言い捨て走り去る後ろ姿へ、いってらっしゃいと声を掛けた。
 もう聞こえないだろうけれど。

 

 

 

 


end.

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