落ちる、こえ


 

 

 耳に、ふと落ちるこえ。

 

 どうしてか彼の声は耳に入りやすい。
 目よりも先に、耳が彼を捉える事すらある程だ。
 特徴あるその口調よりも先に、その声が。

 

 耳に、ふと落ちる。

 

 

 唇の半分を触れ合わせ言葉を交わす。
「こえ、が……」
「―――声?」
「うん、お前の」

「俺の、か」
「発声器官とか口蓋とか、どうなってるのか興味ある」
「そら……光栄なことで」

 舌でひとつひとつ、確かめてゆく。
 閉じた瞼に指が触れた。

 

 絡めた舌を解かれる。
 名前を呼ばれ目を開いた。
 視界に色が戻り来る。
 再び呼ばれた、その声を吸う。

 

 ビロードを思わせるそれが
 するりと喉に落ちた。

 

 

 


end.

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