秋夜も深く


 

 

 秋の夜長に本を読む気もせず、ベッドに寝転がっている。
 そのままどこに動く気もしない。
 だからと言って何も手につかないという事もない。
 だって手の中には、携帯電話が収まっている。

 けれど只、弄んでいるだけといっていいかもしれない。
 延々と着信メロディを聞いていたり、ネットに無闇に繋げて金の無駄遣いをしてみたり。
「――」
 事ある毎に画面表示を切り替える。
 着信はまだ、ない。
 別に約束した訳ではないし、自分から掛けても別に構わないのだけれど。
 躊躇いに息を吐く。
 僅かなキーの操作ですぐに繋がる筈なのに。
 触れられないままに無為に時が過ぎてゆく。

 

 

 甲高い電子音にもいい加減厭きて止めた途端に沈黙が落ちる。
 どこからか降ってきた静寂に押しつぶされそうになる。
 忙しさに紛れていれば忘れていられるのに、一旦気付けば途方もなく重い。秋の夜は特に。
 誘発されみるみる膨れあがる寂寥のカタマリに頭を振り拒絶する。
 そもそも実際、電話を掛ける理由も無いというのに。
「……何やってんだか、俺」
 呟いた自嘲が昏く消える。
 既に留守録のメッセージは一度聞いている。無音の音をたちどころにかき消すような、彼の声。
 もう一度、と思う自分を携帯を投げて押しとどめた。
 そのままぱたりとベッドに伏して目を閉じた。

 

 

 電子音が遠くに聞こえる。
 彼を告げる音の繰り返しに寂寞から解放され、眠りに落ちた。

 

 

 

 


end.

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