white balloon


 

 

「メリークリスマス!!」
「……え」
 不意に目の前に差し出された白いモノに、コナンは瞬き凝視した。
 其処から視線を上げてゆく。白、白、赤、白。
 馴染みの衣装に身を包んだサンタクロースが白い風船を差し出していたのだ、と思った時にはもう伸びた紐が手に握らされていた。
「――これ」
 返そうとした声に側の声が被さった。
「ええやん、もらっとき」
「あ――ん、ありがと」
 笑顔を作って見上げると、やけに扮装が馴染んでいる老人がたくわえた髭を扱きながら笑んだ。
 手を振ることも忘れない。そうやって後にして、側を歩く男にコナンはにわか問いかける。
「……本物?」
「ナニを持ってしてホンモン、ちゅうのはナニやけど、サンタクロースの国から来日!ってのはホンマらしいで」
「へえ」
 聞き流しながら辺りを見回す。クリスマス本番なだけあって街は妙な盛り上がりを見せていた。
 人通りの特に多い中を買い物なんて、とコナンは渋っていたのだが平次に引っ張られるように連れて来られてしまった。
 しかし低い目線で人混みの中を歩くのはやはり疲れてしまい、感覚がいい加減鈍くなった所に突然の来襲。
 同じ背丈でふよふよ浮かぶそれを不服そうに引っ張ると、平次がからかうように言ってきた。
「白づくしでええ目印になるやん」
「……お前持ってろよ」
「工藤が貰うた奴やん。これで迷子になったかて大丈夫や。『白いコートをお召しになって白い風船を持ったお子様が……』てな」
 言いながら平次はコナンを眺める。白いダッフルコートを着て白い風船を持ち歩く姿が妙に可愛らしい。全身黒ずくめの自分の姿は、彼の後ろを歩けばまるで黒子だ。思ったままそれも言うと、じゃあ俺は人形か何かかと睨まれた。
「第一、目立ちすぎて攫われたらどうすんだよ」
「まあなあ。一応見た目だけは子供やし、自分」
「……服部」
「何や」
「先刻から思ってたんだけど、よっぽど俺の感情を逆撫でたいんだ?お前」
「……んなツモリは……っておい」
 かがみ込んで、特殊靴のダイアルに伸びたコナンの手を急いで止めようとする。
「そないなモン、ヒトに直接向けたらアカンて」
「時と場合によるけどな」
「と――とりあえず今は止めとき。他にもヒトが――」
 咄嗟に止めようとした手が弾いて、風船を持つ手が瞬間離れた。
 慌てて飛んでいくのを止めようとしたものの予想した高さにまで上がらす、伸ばした手が空を切った。  
「何だ――コレ。空気でも交じってんのか」
「重いんか」
「ほら」
 手を離しても上がる気配は無く、コナンと同じ背の辺りをふらふらと漂っている。
「だろ?」
「やな。手え離しても直ぐには飛んでかないようにでもしてるんやろか」
「何だ。どうせなら俺も一緒に飛んでく位ガス詰めればいいのに」
「……無茶言うなや……」
「じゃあ、これだけ飛ばすか」
「――は?」
 言うとコナンはもう一度かがみ込んで、靴のダイアルに手を伸ばす。微調整している様子に、平次は察しがついたらしく心配そうに声を掛けた。
「それ――割れるで、止めとき」
「俺の腕信用してないだろ」
「この場合足やけど……お、」
 掬い上げるように柔らかく風船を蹴り上げると、ふわり浮かび頭上を越えた。
 そのまま上昇気流に乗ったらしく、みるみるうちに空高く飛んでゆく。
 空気の冷えた青空に吸い込まれてゆく、白色のふくらみ。
 ――自分が飛べないなら、せめて。
「ほら――な」
「上手い事やるもんや」
 白い点がすっかり消えてしまうまで二人で眺めていたが、いい加減首が痛くなり再び歩き出した。
「けど、少し勿体なかったんと違う」
「何で」
「折角のサンタからのクリスマスプレゼントやったのに、なあ」
「勿論、代わりにくれるんだろ?」
「は?」
「クリスマスプレゼント。俺に」
「……ええよ。何がええ?」
 笑んで問う平次にコナンは応える。
「じゃあ、さっきのトコで風船もう一個」
「……今度は持って帰る、言うんならな」

 

 

 

 


end.

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