cold,hot,chocolate
室温は程良く調整していた筈なのに、辺りに交じる冷気が皮膚に触れた。
「……寒っ」
布団から僅か出ていた自分の手に気付いて新一はすぐさま中へ潜り込ませた。暖を取ろうと傍らの山に身を寄せる。
と、寄せた先から声がした。
「『バレンタインカンパ』言うんやて」
「……起きてたのかよ」
「まな。はよ」
仰向けの山だった平次がこちらを向いて挨拶と共にキスを落とした。
軽いついばみを受け、ようやく朝に慣れてきた頭で聞き返す。
「……はよ。――で、バレンタイン何だって」
「寒波。サムイナミや」
「んなの初耳なんだけど」
「いっつもバレンタインデーのあたりにめっちゃ寒くなるかららしいで」
「へえ」
去年は、一昨年はどうだったかなんて一々浮かんでこない。
とりあえず、今だけはその説が立証されてはいるけれど。
「何でも、恋人のラブラブっぷりにチョコが溶けてしまわんように……って工藤、」
「何」
「むっちゃ呆れた、て言いたげな顔しとるけど」
「……どう寝惚ければそうなんのかって思ってたトコ。真顔で言ってる辺り余計に」
「俺が考えたんちゃうで。この前天気予報で言ってたんや」
「結果から無理矢理理由作ってどうすんだよ」
「まあなあ。溶けんように冷やしたかて逆効果やと思うけどな」
「何で」
「やって、冷えたらひっつくやろ。自分みたいに」
その言葉に退こうとした身体は彼の腕に引き寄せられた。
「したらやっぱり、結局は溶けてまうやろし」
「――っ」
もう一度落とされたキスに先刻までとは違うモノを感じて目を上げた。
「――まあ、冷えたチョコをどろどろに溶かしていくんもええよな。ゆっくり、時間掛けてあたためて」
滑らかに身体の縁をなぞられる。何処へも止まらず、留まらず、同じ速度でゆっくりと。
「何のハナシ、して」
「せやからチョコの話やろ?やわらかくしたのん掻き混ぜて――どんどん溶かして」
言葉通りに彼の指が動く。
掘り起こされる熱に、継ぐ息が上がる。
「せやな、どろどろに溶かしたんを指で掬って」
掴まれた手首から先が一本ずつ口に含まれる。
止まない身体への愛撫と相まって、神経がざらざらと痺れてゆく。
「――舐めるんも美味いかな」
「行儀悪……い」
「やって、ソレが好きなんやし」
しゃあないやんなあ、と笑いを含んだ声が耳元で聞こえた。
「っ……俺、は」
「何や」
「――凍ってるの、そのまま囓るのも美味いって……思うけど」
添えられていた腕の内側に歯を立てる。そのままゆっくり噛み跡を残してゆくと、付け根あたりで顔を持ち上げられた。
直ぐ目の前に、苦笑と困惑を混ぜた彼の顔。
「……チョコの話やよな」
「さっきからそうだろ?」
「そやな。――したら、お互いチョコが好物、ちゅうことで」
「こんな寒くても、な」
「ホンマ、逆効果や」
笑んで交わしたキスで身体がじわりと熱を持つ。
ホットチョコレートを流し込んだように。
end.