tap tap


 

 

 彼からの電話はエアポケットに落ちるようだ。
 耳慣れない着信音。耳に慣れるほどには電話の回数は多くはなく、だから平次の身体は直ぐに反応した。
「ほいな」
『……早』
「自分掛けて寄越すなんてよっぽどな用やんか」
『確かにお前程じゃないけどさ。生憎暇じゃなくて』
「るさいわ。暇は見つけるんやなく作るモンやで――で、何やの」
『今現場なんだけど』
 受話器の先の、磨りガラスを通したような音のざわつきに独特の雰囲気を感じていた所だった。
 突発的なのか予め招かれたものなのかまでは分からないが、とりあえずその現場で新一が自分に何かを求めている事は確かだ。
「ああ、んな感じやな。俺は部屋で資料読みや」
『一人で暇持て余してるって?』
「おお。さみしゅうしとりますわ」
『それはますます好都合。あのさ、どっか叩いて欲しいんだけど』
「――は?」
『だから、目の前にある色んなモンを』
「たたく」
『そう』
「――こんなんか」
 目の前のマグカップを、とりあえず指で弾いた。
「マグカップ」
『ん、聞こえた。んな感じで部屋のあらゆるモノを指で叩いて、電話の側で音鳴らして』
「……納得したわ」
『まだ説明も何もしてねえけど』
「ヒトの目があったら出来ひんって事がや」
『――だろ?』

 

 

 木。金属。陶器。プラスティック。
 目に見えるモノを片っ端から弾いて、叩いて、擦る。
 リズムを奏でるには遠い、只の音の羅列。
 一通り音を出して息を吐いた。
「……どや」
『ん、OK。サンキュ』
「で、どれがお気に召したんや」
『もっかいこっちで試してからだな。落ち着いたら話す。じゃ』
「ちょちょちょお」
『何』
「協力したんやさかい、ご褒美のひとつかて」
『今忙しいんだけど』
「すぐや、すぐ。――俺も音、聞きたくてなあ」
『……何の』
 無言で携帯電話を自分の胸に押し当てた。何かに誓うようなポーズで一呼吸置く。
 そっと離し問いかけた。
「聞こえたやろ」
『――それで』
「工藤の、聞きたいわ」
『切る』
「――」
 ぱつり、切られた電話に向かって笑む。
 通話の途切れる直前、布の擦れる音と共に微かに低い音がした。
 彼の胸の上を滑り降りる携帯電話が、平次には見えた。

 

 

 

 


end.

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