碧の海辺


 

 

 その匂いに色があるとするならば、碧。
 新一はゆるりと目を開き、その先の碧を視認する。
 匂いに色があるように感じるのは、目に映っているモノに匂いが結びつくからだ。
 例えば琥珀色のアルコール。乳白色のミルク。赤色の血液。
 そして、碧色の――
「……ッ――痛て」

 涼を味わうべく敷いたゴザは二人で寝転がるには十分ではなくて。
 汗ばみ貼りつく腕を上げると、そこにはイグサの編目の模様がくっきりと写し取られていた。
 押し付けたまま眠りに落ちていたらしく、跡は赤くて触れるとじわり痺れた。
「あー……しまったなあ」
「――ん。何や……寝てもうたわ」
 逆を向いて寝入っていた彼も目が覚めたようで身じろぎした。
「おい、はっと――」
 まだ寝惚けながらも振り向いた彼に掛けようとした言葉が途中で止まる。
「……あーあ」
「どしたん、工藤」
「しばらくお前、外出らんないな」
「何や、俺の顔に何か付いとるんか」
「付いてる」
 振り向いた彼の片頬にくっきりと写る、同じ編目模様。
 指でなぞると段差は明瞭だった。触れられどんな状態なのか彼も直ぐに覚ったらしく、渋面になった。
「うわー……しもたわ」
「ベッタリ、だろ?俺はまだ隠せるからいいけど」
「何、自分もなん」
「生憎誰かと違って寝相が良いもんで。腕だけ」
 ほら、と腕を差し出すと手に取って近くでまじまじと見てきた。
「ほんまや。何や悔しいわ」
「何がだよ――ッ、」
 振り解くにはもう遅く。
 赤い跡を彼の舌が辿った。
 まだ消えずに残っていた痺れが深く反応する。
「悔しいさかい、お返しや」
「――なん、の」
 何でもや、と唇が跡をなぞり囁いた。
「――」
 それならばと、掴まれて自由にならない痺れた腕はそのままで、もう片方の腕を支えにして。
 身を乗り出し、彼の頬の揃いの模様を舌でなぞった。
 潮の味。碧の味。
 舌の先に乗せて転がしていると頬が、模様がずれて唇が開いた。
 キスも碧の味がした。

 

 

 互いに模様に引き寄せられ、僅かばかりの碧の海へ。

 

 

 

 


end.

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