wait for...(*HAPPY BIRTHDAY*...2) 

 

 

 電源が切られている、とのメッセージに苛つきながらも少しの落胆と安堵をないまぜに公衆電話を切った。
 そのまま何気なしに振り返る。
 ―――一瞬、自分が何を見ているのか分からなかった。
「―――服部」
「よ、」
 軽く手を上げて彼が微笑んだ。
 側には愛用のバイク。―――こんな山奥まで。
 立ち竦んでいる坂の急な傾きを思い出し、ようやく我に返った。
「何で、居んの」
「ご挨拶なやっちゃなー。ここまで来んの大変やったで。目暮警部に調べてもろてな、やっとや」
「……警部も可哀相に。こんな奴に使われて」
「立ってるモンは何とやらや。で、工藤。片付きそうか?」
「―――何で、来たの」
 こんな事を言いたい訳じゃない。
 けれど、だからといって何を言いたいのか良く分からない。
「迎えに、な」
「………」
「もう少しで片付くんやろ。したらちゃっちゃと終わらせて早よ帰ろや」
「……んな簡単に片付くんなら徹夜なんかしてねえって」
「現場邪魔するつもりは無いし、ここらで待っとるわ」
「―――」
「な?」
 覗き込む笑顔に口ごもる。
「……どん位かかるか分かんないけど?」
「ええよ」
「また、夜中になるかも―――」
「ええよ。待っとるから」
 柔らかく返される言葉に、反発を帯びた言葉はすぐにしぼんだ。
「……分かった。お前が待つって言ったんだから、ちゃんと待ってろよ。どれだけ掛かっても知らないからな」
 彼の顔に向かって指を突きつけた。
 その指が、両手でくるまれる。
「素直やないなあ」
「……何が」
「『待っててくれてうれしい』やろ?」
 
笑んだ口元に指が触れた。
「ちが―――」
 反射的に振りほどき、熱を帯びた手を冷ます。
 睨むように見ても、彼の笑みはますます深くなるばかりだ。
「ほら、片しにいくんやろ」
 頭を軽く撫でられ、行ってこいやと送り出された。
「……じゃあ、行くから」
「おお。気張りや」
 坂の上の現場へ向かって二、三歩進む。
 立ち止まって振り返ると、見送っていたらしい彼が怪訝な表情を浮かべた。
「―――言い忘れてたんだけど」
「何?」
「俺、今まだ生まれてないんだよね」
「―――」
「夜、だったんだ」
「そりゃ……もうけもんやな」
「何だよ、それ」
 少し笑って、軽く手を上げた。
 今度は後ろを見なかった。

 

 

end.

 

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